競馬ファンとして日々競馬を楽しむ中で、一番辛いのがレース中の落馬や骨折などの事故ではないでしょうか?
テンポイントやサイレンススズカ、ライスシャワー…自分の応援していた馬がレース中の事故で予後不良となってしまうことほど悲しい事はありませんよね。
競走馬にとって、また、馬という生き物にとって骨折は致命的な怪我と言われています。
しかし、過去に活躍し、名馬と呼ばれる馬たちの中には「骨折」を乗り越え、見事復活を遂げた馬たちも存在しています。
・なぜ競走馬の骨折は致命的なのか?
・骨折から奇跡の復活を遂げた3頭の名馬たち
についてご紹介させていただきたいと思います。
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競走馬の怪我・骨折に安楽死が多い理由
レースや調教中の事故で骨折や脱臼をしてしまったり、病気になってしまった馬は予後不良(回復が極めて困難だと思われる状態)と診断され、安楽死となることが多いです。
人間の場合なら脱臼や骨折が直接死に関わることはまずありませんし、しばらく安静にしていれば治る病気です。それなのになぜ競走馬の骨折の場合は安楽死にさせてしまうのでしょうか?馬の体の仕組みについて知らない人の中には「怪我をしたら殺して代わりを見つけるんだ」とか、「治療するための費用がかかるから殺してしまうんだ」と思っている人もいるかもしれませんが、実はそれは全くの勘違い。
言うなれば「安楽死させるしかない」のです。これからその理由について説明していきます。
◆馬にとって骨折は致命傷
競走馬であるサラブレッドの足首というのはとてももろく、骨折してしまったりヒビが入りやすいことでも知られ、「ガラスの脚」とも言われています。(人間でいうとくるぶし部分)
一般的な競走馬の体重はおよそ400〜500kg前後ですが、そんな重く大きな体のあのような細い脚4本で支えているのです。普段ただ何もせず立っているだけでも、1本の脚で100kg以上もの重量を支えているということになります。
それが骨折や怪我で1本の脚が使えなくなってしまうと、頼りになるのは残り3本の脚しかありません。
◆健康な脚が病気になってしまう
そうして骨折してしまった脚をかばうと他の足に普段以上の負担がかかることになります。普段、しっかりバランスを取って支えていのに急にバランスが崩れてしまう訳です。
すると、健康なはずだった他の3本の脚に蹄葉炎、蹄叉腐爛などといった、他の病気を発症してしまうことになります。
このような病気が悪化すると衰弱して最終的には死んでしまったり、痛みでショック死してしまったり、とても回復が見込めるどころではなくなってしまう場合も多いのです。
だからこそ、馬がこのような病気にかかり、苦しんで死ぬようなことがないよう安楽死という方法を取らざるを得ない事が多いのです。
テンポイントの悲劇
安楽死させなかったケースも過去に存在しています。
それが流星の貴公子と呼ばれたテンポイントです。
テンポイントはクラシックでは無冠だったものの天皇賞(春)や有馬記念に勝利し、1977年有馬記念でトウショウボーイ、グリーングラスと繰り広げたマッチレースは競馬史に残る名勝負のひとつと言われています。
そんなテンポイントは1978年、海外遠征を行うと発表。しかしファンから遠征の前にテンポイントの姿を見たいという強い要望が寄せられるようになり、壮行レースとして日本経済新春杯に出走させることをとなりました。66.5kgという斤量に懸念を抱きつつも出走、テンポイントが斤量を苦にしている様子はなかったものの、第4コーナーに差し掛かったところで左後肢を骨折。競走中止となりました。
テンポイントの骨折は第三中足骨が皮膚から突き出す開放骨折という重度のもので、獣医師は安楽死を勧めていました。
しかし、馬主の了承のため1日保留している間にファンからテンポイントを助けてほしいとの電話が数千件寄せられ、電話回線はパンク寸前に。これを受けて成功の確率は数%と認識しつつ、テンポイントの手術を決定したのです。
そして大掛かりな手術が開始となりました。33名の獣医師からなる医師団がテンポイントの手術・治療に当たることに決定し、1月23日に手術を行いました。
特殊合金製のボルトを使い折れた骨を繋ぎ合わせた後でジュラルミン製のギプスで固定するという内容の手術は成功したと思われ、2月12日には医師団が「もう命は大丈夫。生き残る見通しが強くなっている」と発言。
しかし実際にはボルトは馬体の重みで曲がり、折れた骨はずれたままギプスで固定されてしまっていたのです。
2月13日には患部が腐り、骨が露出しているのを確認。更に2月下旬には右後脚に蹄葉炎を発症して鼻血を出すようになるなど症状はどんどん悪化。
3月3日には事実上治療が断念され、これまで脚に体重がかからないように行われていた馬体を吊り上げるという措置を中止し、テンポイントを横たわらせ、3月5日の午前8時50分、蹄葉炎によってテンポイントは亡くなりました。
この時、安楽死は最後まで行われず自然死でした。
骨折前には500kg近くもあった立派な馬体は闘病中にやせ細り、最後は300kgを切るとも予測されるほどまで減少していたそうです。
テンポイントの死は日本の競馬界に多くの問題を提起し、安楽死について、重い斤量を課すことについて、厳冬期に競馬を行うことについてなど、様々なことが話題になりました。
これにより負担重量について再検討がされ過度に重い斤量を課す風潮が改められたり、安楽死についての考え方が変わったとも言われています。
奇跡の復活を遂げた名馬たち
競走馬にとって骨折は恐ろしいものですが、必ずしも死んでしまうという訳ではありません。
骨折がどの程度か、そしてその後の治療過程によってはまたレースに復帰することができる場合もあります。
実際、競馬史にその名を刻んでいる馬たちの中には骨折から奇跡の復活を果たした馬も存在しています。
今回はそんな奇跡の名馬の中から3頭をご紹介したいと思います。
グラスワンダー
どんどん着差を広げていく驚異的なパフォーマンスから「栗毛の怪物」「マルゼンスキーの再来」と呼ばれたグラスワンダー。
的場均騎手を鞍上に1997年9月13日の新馬戦でデビューし無敗のまま朝日杯3歳ステークス(朝日杯フューチュリティステークスの前身となるレース)でG1制覇。
来年からの活躍が期待されていたものの1998年3月に右後脚の第3中手骨を骨折していることが判明。
順調に回復し秋にはレースに再登場したものの、復帰戦である毎日王冠では5着。次走となるアルゼンチン共和国杯では6着という結果に。
やはり怪我の影響は大きかったのか…復帰から3戦目は1998年の有馬記念。今までは1、2番人気をキープしていたグラスワンダーはここで初めて4番人気に。
しかし、その人気とは裏腹にグラスワンダーは圧巻のレース内容で有馬記念を制覇!見事完全復活を果たしたのです。
メジロマックイーン
菊花賞、阪神大賞典、天皇賞(春)と連勝したメジロマックイーン。1991年秋は不調だったものの、翌年は調子を戻し再び阪神大賞典へ。
そして5馬身差をつけて圧勝すると、そのままの勢いで天皇賞(春)へ出走。
2冠馬トウカイテイオー、ダイユウサク、メジロパーマーら同期の強豪馬を相手に勝利し最強ステイヤーの意地を見せつけ、天皇賞(春)連覇という偉業を達成しました。
しかし、絶好調だったメジロマックイーンはなんと宝塚記念へ向けての調整中に左前脚を骨折。一命はとりとめたものの怪我は重く、長期間の治療と休養が必要となりました。
そして1年後、無事に復帰したメジロマックイーンは大阪杯に出走、ブランクを感じさせない走りを見せ、5馬身差で圧勝しました。
トウカイテイオー
骨折からの奇跡の復活劇といえば、外せないのが七冠馬シンボリルドルフの初年度産駒の一頭であり、日本調教馬として最初の国際G1競走優勝馬のトウカイテイオーです。
1990年にデビュー。そこからなんと無敗のまま皐月賞、そして日本ダービーまで6連勝。
日本ダービー後には親子二代の無敗のクラシック三冠達成への期待が大きく高まっていましたが、表彰式を終えて馬房に戻る時点で歩様がおかしかったため、レントゲンを撮ったところ左後脚を骨折していることが判明。菊花賞は断念することになりました。
そして約1年の休養を経て出走した大阪杯では1着に。しかし天皇賞(春)で5着、天皇賞(秋)で7着という結果に、
ジャパンカップでは5番人気ながら1着となり、次の有馬記念で1番人気となるも11着と惨敗。左中臀筋を痛めていたため休養にはいりました。
その後は宝塚記念で復帰する予定だったもののまたしても骨折していることが判明。1年間の休養を余儀なくされました。
そして挑んだ1993年有馬記念。1年ぶりということもあり4番人気まで落ちていました。しかし、レースでは残り100mを切ったところでビワハヤヒデを差し切って勝利!
G1レースでしかも365日ぶりの出走での勝利。このトウカイテイオーの記録は最長間隔出走GI勝利として不滅の記録として語り継がれています。
この時のフジの堺アナの「トウカイテイオーだ、トウカイテイオーだ!トウカイテイオー!奇跡の復活!一年ぶりのレースをっ、制しました!」という実況は有名ですよね。
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いかがでしたでしょうか?
過去にも骨折から復活した競走馬はたくさん存在していますし、最近でもアメリカジョッキークラブカップでは骨折で休養していたシャケトラが約1年1ヶ月ぶりのレースで見事優勝しました。
骨折から復帰は難しいと言われている中で見事復活し、奇跡のようなレースを見せてくれる馬たちは競馬ファンに勇気を与えてくれますよね。とはいえ、出来ることならどの馬も怪我をせず、生涯無事之名馬を貫いてほしいものです。