当て馬って何?当て馬の意味や語源を徹底解説!

当て馬

皆さんは、当て馬をご存知でしょうか。
当て馬は、サラブレッドの生産には欠かせない存在です。

毎年多くの種牡馬が繁殖牝馬と配合されていて、日本だけでも1年に約7000頭のサラブレッドが生産されています。

繁殖牝馬に対する種付けで重要な存在となるのが当て馬です。

今回はそんな当て馬に関しての解説を行っていきます。

当て馬って?

当て馬

当て馬は繁殖牝馬の発情を促すことによって、種付けをスムーズに行う役割を担っています。

サラブレッドの生産牧場には、現役を引退した牡馬が当て馬専用に飼育されていることが多いです。

繁殖牝馬に危害を加えないように、気性の大人しい馬が当て馬として選ばれます。

当て馬は、繁殖牝馬の発情を促すためのものなので、実際に交配を行うわけではありません。
壁越しに当て馬を近づけるなどし、実際に交配が行われないように注意されています。

発情を促すだけで実際に交配できないことに、「かわいそう」だと感じる人も多いかもしれません。

しかし、性欲が高まった状態で引き離されることにストレスを溜めてしまうこともあるため、ストレス解消する目的で種付けをするケースもあります。

「当て馬」がいなければ生産の効率も上がらないので、「当て馬」はサラブレッド生産においてかなり重要な役割となっています。

当て馬の語源

競馬ではよく聞く用語の「当て馬」ですが、その語源が気になっている人も多いでしょう。
「当て馬」は競馬の専門用語というわけではなく、日常生活でも使われることのある言葉です。

「当て馬にされた!」「当て馬を上手に使った」など、普段から使っている人もいます。

「当て馬」の語源こそが、繁殖牝馬の種付けの際に発情を促すための馬のことです。
日常生活で「当て馬」という言葉を使っている人は、この語源を知らない人も多いかもしれませんね。

繁殖牝馬の種付けの際に発情を促すための馬ことだったのが転じて、「相手の出方を探るために、仮に表面に立てる人」のことを「当て馬」と言うようになっています。

語源を知っておくことでより、「当て馬」という言葉の理解が深まりますね。

3:当て馬としても有名な3頭

ちょっとかわいそうな役割だと感じてしまう「当て馬」。
どのような馬が「当て馬」として活躍していたのか気になりますよね。

そこで、「当て馬」として有名だった3頭の馬を紹介します。

シンコウウインディ

シンコウウインディ

G1馬ながら当て馬を勤めたことでも有名なのが、「シンコウウインディ」。
「シンコウウインディ」は、1997年のフェブラリーSの勝ち馬です。

1997年のフェブラリーSはG1へと昇格した初年度だったため、記憶に残っている人も多いのではないでしょうか。

「シンコウウインディ」は現役時代の実績が評価され、引退後は種牡馬になりました。

3年間の種牡馬生活を経て、2007年から「当て馬」として第三の馬生を歩み出しました。
G1馬が「当て馬」をしているということには、驚きを隠せません。

種牡馬としての成績が不振だと種付頭数も増えないので、「当て馬」としての才能を評価されたのです。

現役時代は気性が悪いことで有名だった「シンコウウインディ」ですが、年を取ってからかなり落ち着いた様子を見せていました。
「当て馬」としては非常に優秀で、牧場の外国人スタッフが「こんなに素晴らしい当て馬は見たことがない」と感心したというエピソードもあります。

「シンコウウインディ」が「当て馬」として優秀だったのは、繁殖牝馬に蹴られてもおじけづくことがなかったからです。

馬によっては興奮した牝馬に蹴られてしまって、落ち込んでしまうことがあります。
「シンコウウインディ」は蹴られても引きずることなく、次々と「当て馬」としての役割をこなしました。

表にでることはなかったのですが、まさに縁の下の力持ちとして牧場を支えたのです。

スーパークリーク

スーパークリーク

誰もが知る名馬が「当て馬」になっている。
そんなことに驚きを隠せないケースが、「スーパークリーク」です。

「スーパークリーク」と言えば、菊花賞や天皇賞などのG1を制覇した名馬。

天才・武豊騎手とのコンビで有名でした。
そんな「スーパークリーク」は、引退後に北海道浦河町の日高スタリオンステーションで種牡馬となりました。

「オグリキャップ」や「イナリワン」などと共に期待されていた存在でしたが、自身のような活躍をする馬は輩出できませんでした。

「スーパークリーク」は種牡馬として良い成績が残せずに、「当て馬」となります。
G1を3勝した名馬が種牡馬として活躍できずに、「当て馬」になることもあるというのが厳しい現実を物語っています。

「スーパークリーク」は気性の大人しい馬だったことから、「当て馬」に向いていたのも理由の一つかもしれません。

「当て馬」として余生を過ごすなか、「スーパークリーク」は2010年に老衰のため死亡しました。
競走馬としてや種牡馬としてだけでなく「当て馬」の役も担った「スーパークリーク」は、その馬生を一言では言い表せないほど個性的な名馬ですね。

ブゼンダイオー

ブゼンダイオー

「当て馬」のエピソードとして有名なのが、「ブゼンダイオー」のエピソードです。
これまで説明してきたとおり、通常「当て馬」は交配されることはありません。

あくまでも、牝馬の発情を促す役割だからです。

ところが、「当て馬」の仕事をしていた「ブゼンダイオー」は、実際に交配をしたことがあります。

上田牧場にいた繁殖牝馬「スイートドリーム」は後ろに立った馬を蹴り上げる悪癖があり、種牡馬と種付けするのに非常にリスクがありました。
もしも種牡馬を怪我させてしまったら大変なことだからです。

そこで、怪我をしても大丈夫な「ブゼンダイオー」が種付けされたのです。

この一件で驚きなのは「当て馬」の「ブゼンダイオー」が実際に種付けを行ったということだけではなく、産駒がG1を制覇したことです。

「ブゼンダイオー」は種牡馬ではなく、「当て馬」になった馬なので現役時代も特筆した成績を残していたわけではありません。

そのような中、G1馬を輩出したというのは非常に面白いエピソードです。

「スイートドリーム」はその後、他の種牡馬とも種付けを行いましたが、結局「ブゼンダイオー」との産駒を超える成績を残す馬は出ませんでした。

競走馬の引退後

競馬 引退後

競走馬は引退後、様々な道に進みます。
種牡馬になれる馬はごく僅かで、ほとんどの馬が他の進路へ進むことになります。

「当て馬」や乗馬になれるのは運が良い方です。

ほとんどの競走馬は行く先が見つからずに、殺処分されてしまいます。
そう考えると、「当て馬」は決してかわいそうな存在ではありません。

「当て馬」になれる馬も限られているので、「当て馬」になれた馬は幸せな余生を過ごしていると言ってもいいかもしれませんね。

まとめ

日常生活でも使うことがある「当て馬」という言葉。
語源は、サラブレッドの生産にあります。

繁殖牝馬の発情を促す役を担っているのが、「当て馬」です。

「当て馬」の存在がなければ、サラブレッドの生産効率は下がってしまいます。
各牧場には「当て馬」が飼育されていて、サラブレッドの生産には必要不可欠です。

過去には、G1を制した馬が「当て馬」として活躍していたこともありました。

その中でも特に有名なのが、「シンコウウインディ」や「スーパークリーク」です。
G1を制した馬でも種牡馬としての成績が不振だと、最終的には「当て馬」になってしまうのです。

ただし、「当て馬」の生活が決して悪いというわけではありません。

種牡馬とは少し違いますが、サラブレッドの生産で重要な役割を担っているのは同じです。
「当て馬」と聞くと悪いイメージを持つ人もいるかもしれませんが、競馬における「当て馬」は重要な馬を指していることを理解してくださいね。

この記事の監修者
後藤孝男
後藤孝男(ごとう・たかお)
大学卒業後、東京タイムズ社に入社。中央競馬担当記者となり全国の競馬場を初め美浦、栗東トレセンなどへ赴き、取材に、予想にと活躍。同紙休刊後は、実績を買われて競馬専門紙「馬三郎」に創刊メンバーとして参画、一昨年からは美浦トレセン北馬場時計班として毎週、サラブレッド達の調教に目を凝らす。
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