競馬で活躍する競走馬たちには、それぞれ個性があります。パドック入りで、騎手たちになだめられている馬を見たことはないでしょうか?
当然ながら、競走馬は生き物ですから気性というものがあるわけです。馬によっては気性が荒く、かなりのやんちゃぶりを発揮する場合もあります。
それが必ずしもレースでプラスに作用するものではないため、必要があれば馬具を使って矯正しなければなりません。
その取り組みによって、競走馬が見違えるような活躍を見せるようになるケースもあります。
この記事では「シャドーロール」と呼ばれる馬具に注目し、その競馬へ及ぼす効果をご紹介しましょう。
シャドーロールを使うことによる3つの効果
いくつか種類がある矯正馬具の中にあってシャドーロールは馬の視界を矯正する目的で鼻先に装着して使用されるものであり、素材は大部分がアクリルないし羊毛です。
同じ使途で用いられている馬具としては「チークピーシズ」、「ブリンカー」といったものもあります。
それぞれ馬の視界を遮るようになっているのですが、遮る部分は異なっているのです。
いずれも馬からすると視界をせばめられる恐怖心があることから騎手へコントロールを委ね、騎手にすれば馬を扱いやすくなります。
全般的にフォームを矯正し固定するものですから、しっかりフォームが形になり変化として確認されるまでは使い続けることが良いとされているものです。
①足元の視界を制限する
シャドーロールは足元があまり見えなくなるようにする目的で使用されています。
その理由は馬によっては、自らを含め足元に映る物影や芝がちょうど切れ目となっている部分などにも驚き心を乱してしまうようなケースがあるのです。
そこで下の視界を遮ることによって、馬の意識は前へ向くことが期待されます。
②目を守る
競馬場のコースには、芝のほか砂を主体とするダートがあります。
走行中にはやはり、馬の目に砂が当たるといった事態も考えなければなりません。
シャドーロールを用いることで、目を保護する効果も期待されます。
③頭を下げる
走るときに頭の高い馬に対し、頭を下げるようにする目的でもシャドーロールは活用されます。
装着すると、馬によっては足元の視界が悪くなることでさらによく見ようとして頭を下げる傾向も見られるのです。
それによって、騎手としては馬を手でコントロールしやすい口の向きとなる効果があります。
シャドーロールに効果を出させることは良くない?
シャドーロールによる調教で頭が高い馬の頭を下げることは、必ずしも肯定的にとらえられていません。
競馬で走る馬にとって、理想的なフォームは低くした頭を前へ伸ばすかたちであるとされています。
ただ元々の骨格、あるいは筋肉の発達といったところに注目すると個体差があるわけです。
ですから頭の高い馬にとってみれば、頭の高いフォームが自分にとってベストであるということになります。
この点は競馬関係者の間でも意見が分かれるところであり、あえて強引に矯正することはしないという調教スタイルが目立つようになってきました。
シャドーロールが効果的でない場合もある?
馬によって性格が異なる以上、画一的な調教方法がすべてプラスに作用するわけではありません。
シャドーロールを使用することについても、視界が悪くなることに対するストレスがひどく強い馬がいるのです。
あまりにも不快でまったく歩きもしなくなる、その状態を解消したいがために暴れ出すといった例もあります。これでは、効果的どころか逆効果です。
また、シャドーロールを使い続けていると馬が慣れてどうしても効果は失われていってしまいますから永続的に有効な調教方法というわけではありません。
そのほか単体では効果が見られなくても別部分の視界を制限するチークピーシズ、ブリンカーを併用することによって集中力を向上させる効果が現れたといった実例もあります。
効果について、一概に言うことはできないのかもしれません。
ナリタブライアンとシャドーロール
馬具としての知名度に注目すると、マスクのように装着する「メンコ」などと比較してシャドーロールはそこまで認知されていませんでした。
そんな中、1993年から1996年にかけて数々のレースを制してきた伝説の三冠馬であるナリタブライアンが「シャドーロールの怪物」なる異名を持つようになりました。
ナリタブライアンはレースへ参戦した当初、影に怯えるような様子が見られていたといいます。
その後、担当であった大久保正陽調教師の意向から白いシャドーロールを装着するようになり、ダイナミックな走りを高い集中力のもと見せるようになったのです。
その強さの影にシャドーロールがあったことで、シャドーロール自体の存在も一般へ広く知られるようになりました。
以降、調教の現場へもかなり活発に取り入れられていたのですが調教に対する考え方は次第に変化していきます。
2019年いっぱいで引退したブラックバゴが赤いシャドーロールを装着し「明太子」と呼ばれ親しまれるなど、ワンポイント的なシャドーロールの人気は失われていません。
ただ馬具としての「流行」という面から見ると、ピークは過ぎていると考えることが妥当でしょう。
シャドーロールが「おしゃれ」にもなる?
シャドーロールには太さやカラーリングなど、さまざまなものがあります。そのためか時には調教目的でなく、装飾具のようにして装着されるケースもあるほどです。
厩舎がイメージカラーとシャドーロールのカラーリングを同じにして統一し、管理しやすくするような例もあります。
2010年に牝馬として三冠に輝いたアパパネは、シャドーロールを使用していたことも知られていました。
所属していた国枝栄厩舎では現在もなお「目印」とする目的で遠方からでも厩舎の馬がすぐわかるよう、通常より厚みがなく白いシャドーロールの使用を続けています。
なお2018年に牝馬三冠となったアーモンドアイも国枝厩舎の所属であり、国枝栄調教師は競馬界においてはじめて二度目の牝馬三冠を達成することとなりました。
もちろんアーモンドアイもシャドーロールを使用しています。
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まとめ
この記事では、競馬の競走馬に調教馬具としてシャドーロールを使用することによる3つの効果や使用に否定的な向きもある理由について解説してきました。
競走馬の性格によっては、足元に見える自分自身の影などに対して恐怖を覚えることが往々にしてあります。
シャドーロールを使うと足元の視界が狭くなるため、その恐怖感が打ち消されることにつながり得るのです。
また鼻先に装着することで、ダートコースを走る際に飛んでくる砂などをガードする効果もあります。
そして足元が見えないことでより足元を気にしようとする馬であれば、それによって頭が下がり騎手はコントロールしやすくなるという効果もあるのです。
ただ馬の骨格や筋肉といった個体差にかかわらず馬具を使用して矯正する調教については、必ずしも良しとされない見方が強くなってきました。
あくまでも、調教の適性が第一に考えられなければなりません。
ナリタブライアンをはじめとして、シャドーロールが使われたことですばらしい戦績を残すに至った馬も多くいます。
シャドーロールを装着している馬を予想に加えるときは、その背景などについて確認する上でぜひこの記事を参考にしてみてください。